今回は心理療法士の第一人者である、ラスハリスさんの書かれた「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」を解説していく。
この本は一言でいうと「本当の幸せを手に入れる方法」を教えてくれる本だ。
現代を生きる俺たちは、様々な困難に直面したり、将来を不安に思いながら生活をしている。
そしてこの本は「ACT」という心理療法を軸に、俺たちが普段不安に思っていることは、ただの妄想であり、そんなことを悩むよりネガティブな自分を受け入れて、「今」という時間を熱中して生きることが幸せに生きる秘訣だと述べている。
この本を通して、過去や未来に怯えず「今」という時間を価値の感じることに費やし、自分らしく幸せに生きる方法について学んでいこう。
ACTとは
まず、この本のタイトルにもある「ACT」について軽く説明する。
ACTとは、Acceptance and Commitment Therapy(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の略称で、つまりは認知行動療法の中の1つの心理療法だ。
具体的には、日常での実践を通じて、「いま、この瞬間」自分の中にある思考や感情を受け容れながら(アクセプタンス)、自分自身が大切にしたい価値に向かって行動パターンを作り上げる(コミットメント)ことを目指すことになる。
ここからは、なぜACTの考えを取り入れることが、幸せに生きることにつながるのかについて解説をしていく。
私たちはなぜネガティブ思考になりやすいのか
なぜ現代を生きる私たちは、こんなにも精神が不安定で病む人が多いのだろうか。
その理由は太古の昔に遡る。
リスクを冒すとすぐに死ぬ
原始人の頃、私達人類の多くは、外敵や危険にさらされていた。
身の回りは猛獣がいるし、法律はないから犯罪だって横行している。
道も今みたいに整備されていないし、医療も発展していない。
この時私達はリスクを冒すとすぐに死んでしまうため、何かに挑戦するときは誰でも「ミスをしたらどうしよう。やめておいた方がいい。死ぬかもしれないぞ」と起こってもいないのに最悪の状況を想像しながら生きていたんだ。
そうすることで自分を傷つける危険を避けてきたんだ。
ネガティブな人間が生き残った
実際にリスクに敏感な心配性の人だけが生き残り繫栄していった。
つまり私達が今ネガティブ思考になりやすいのは、危険から身を守るための立派な防衛本能なんだ。
しかし、現代を生きる私達は抱えるリスクはそういった命に係わることではなく、失業することや人から拒否されること、恥をかくこと、嫌われること、そして人と比べられることになった。
そのため、これだけ世界は発展しているのにもかかわらず、些細なことから最悪の状況を想定して不安になることで、うつ病の患者が増加しているんだ。
つまり、私達がネガティブ思考に陥りやすいのは危険から身を守るためなんだ。
ネガティブ思考はただの妄想
繰り返しになるが、ネガティブ思考というのはまだ起こってもいないのに最悪の状況を想像することで生まれる。
言ってしまえば、事実ではなくただの妄想にすぎないということだ。
ネガティブ思考の正体
失敗したらどうしようという「妄想」が「怖い」という感情を生み、そして「行動」をすることを止めてしまう。
そして行動を止めてしまうと、また失敗をしようとしたらどうしようと考える負のループに陥ってしまうんだ。
これが「ネガティブ思考」の正体だ。
ネガティブ思考は止められない
そして、ネガティブ思考は止めることができない。
なぜなら、繰り返しになるが、ネガティブ思考は身を守るための防衛本能だからだ。
例えば、重要な会議でプレゼンするのに、「失敗したらどうしよう」とか「恥をかくかもしれない」というネガティブ思考が生まれるのは、重要なプレゼンという大きなストレスから身を守る防衛本能なんだ。
私達は些細なリスクから最悪の状況を想定する癖が遺伝子レベルで組み込まれているから、これはどうしようにもないことなんだ。
ネガティブ思考と距離を取る方法
では、一体どうすればいいのかというと、ネガティブ思考が頭に浮かんだとしても、それを受け入れて本気にしないことが大切になる。
ジェームス、お前は一体何を言っているんだ。そんな事本当にできるんかって思う人もいるかと思うけどちょっと待ってほしい。
そのネガティブ思考を相手にしない方法をこの本では「脱フュージョン」と言っている。
脱フュージョン
脱フュージョンとは、自分の思考をいったん脇に置いて距離を取る方法だ。
つまり、自分の思考を客観視することだ。
自分の思考を客観視する
例えば、一週間後に会議があって、どうせ上手く説明できないというネガティブ思考が頭に浮かんだとする。
その場合は、「どうせ恥をかくだけだ」、「と言う考えを持っていることに気が付いている」と心の中で唱えるんだ。
そうすると、自分を第三者の目線で眺めることができて、少し心が楽になるんだ。
それは、ネガティブ思考を真に受けないようにできたからだ。
妄想している自分を俯瞰してみる
その他にも何か新しい挑戦をしようとした時に「どうせ無理だ」と思ったとしよう。
その場合は「どうせ無理だという考えも持っていると気づいている」と心の中で唱えるんだ。
そうすれば、「妄想の自分が失敗すると思い込んでいる」と自分を俯瞰してみることができるんだ。
何かネガティブな思考が湧いたときに、「私はXXXという考えをもっている」という風に置き換えるテクニックは、実際に著者が多くの患者に試して効果があった方法なので、ぜひ実践してみてもらいたい。
「今」に集中すると不安が消える
もう一点、ネガティブになりそうな時にやっておくべきなのは、今に集中するということだ。
過去や未来のことを考えると不安になる
実は人間がネガティブになるのは、過去や未来のことを考えているときなんだ。
明日の仕事がいやだなと思うのは未来、彼女と別れて悲しいのは過去だ。
しかし「今」を集中して生きている時はどうだろうか。
集中している時は不安に思わない
例えば大地震が来た時を想像してみてほしい。
建物が大きく揺れて、飛ばされないように必死で物に捕まり、そして揺れが止んだら外に飛び出す。
不安に思ったり悩んだりしている暇なんてない。
何故なら、今生き残ることに対して集中をしているからだ。
暇な時に人は不安になる
つまり、ネガティブな感情を持つ時は心が「今」ではなく、過去や未来に向いているということになる。
もっというと暇なんだ。
暇だから「今」ではなく、過去や未来のことを考えているというわけだ。
仕事中にネガティブな気持ちになった場合
しかし、仕事中にネガティブになりそうな時に、何かに熱中しろというのは無理がある。
深呼吸をする
そこで最もいいのは、そういう時に深呼吸をして呼吸に集中することだ。
鼻から息を吸って、そして鼻から息を吐く。
ただ深呼吸するだけでなく、その呼吸に意識を集中させてみるんだ。
呼吸に意識を集中する
そうすることで今に集中することができるから、感情的になったり、ネガティブになって思ってもいないことを言ったりせずに済む。
不安定な感情になったら、今に集中するために呼吸を意識してみることでネガティブな感情から脱出できるようになるんだ。
夢に向かって行動すれば幸せになれる
ここまではネガティブ思考に陥った時の対処法について話してきたが、そういった感情と向きあって生きることが、幸せに生きることに繋がることになるのだろうか。
快楽は幸せの1つであるが重要ではない
美味しいものを食べたり、酒を飲んだり、好きな音楽を聴いたり、そういった「気持ちいいこと」は、幸せの1つではあるが重要なことではない。
気持ちよいことを追求することが幸せなのであれば、薬物中毒者が世界一幸せになってしまうだろう。
結局のところ、人は快楽を追いかけても一瞬気持ちいいだけで、長い目で見た時幸せにはなれないんだ。
自分の価値感に沿った行動をとる
では、何が重要なのかというと、「自分の価値に沿った行動」をとることなんだ。
例えば、自分がどうしてもお金持ちになりたいのであれば、つべこべ言わずに実際に行動してみることだ。
自分にとって価値を感じる行動を起こせば、結果にかかわらず人生は必ず充実するんだ。
月並みな言葉だが、人っていうのは、夢に向かって行動している時が一番幸せなものなんだ。
行動こそが人を幸せに導くカギ
ここまでネガティブ思考を本気にしない方法や、不安定な時に落ち着く方法を説明してきたのは、全て夢に向かって行動をするためなんだ。
行動こそが人を幸せに導くカギになるんだ。
過去や未来に囚われ、コロコロ変わる自分の思考に惑わされるのではなく、自分が絶対に叶えたいことや価値を感じていることを行動に起こして「今」を生きるんだ。
それが幸せになるために一番大事なことなんだ。
自分にとって価値のあることを知る
ということで、幸福になるためには自分にとって価値のある行動をとる必要があることを説明してきた。
しかし、自分にとって価値のあるものが何なのかがわからないという人も多いだろう。
まずはゴールを設定する
もし、それがわかっていないのなら、あなたの人生はゴールのないマラソンをしているのと同じだ。
まず、走り出す前に人生のゴールを決めなければならない。
だから何度も「自分が心の底で一番重要視していることは何か」、「どんな人間になりたいか」、「心の底で欲しいと思っているものは何か」と自分に問い続けることだ。
思った事を紙に書いてみる
そして、心の中で思ったそれらを紙に書いてみるといいだろう。
もし、自分にとって本当に価値のあることであれば、多少の困難があったり、誰かに褒められなくても決して行動をやめないはずだ。
実際に哲学者であるニーチェは「生きる意味を見出した人はたいていのことには耐えられる」と言っている。
やる気が出ないことはやらなくていい
逆に、今行動できなかったり、誰かに褒められないとやる気がでなかったり、またはすぐに挫折してしまうのなら、それはそもそも自分にとって価値のない行動をとっていることになるんだ。
極端な話、野球選手になりたいと思っていないのに、辛い練習に耐えられる奴なんていないということだ。
辛いことに耐えられるのは、その先に自分にとって絶対的な価値やゴールがあるからなんだ。
そして、そのゴールに進んでいる間に、苦労や困難があったとしても、それらを乗り越えて進んでいくことで、人間は幸せを感じることができるんだ。
価値の基準は人それぞれ
もちろん価値を感じることは人それぞれ違うだろう。
絶対結婚をしたいという人もいれば、自分の時間を大切にしたいという人だっている。
どちらにせよ、他人の意見なんてどうてもいいことだ。
大事なのは、自分にとって価値のあることがわかったら行動あるのみだ。
私たちの人生は限られているし、行動できる時間はずっと短い。
だからただの妄想であるネガティブ思考に惑わされるのではなく、夢を叶えるために今行動を起こすんだ。
価値を感じる行動を小さく起こす
とはいえ、まだ行動するのは怖かったり難しかったりするという人もいると思う。
そこでまずは小さく行動することをおすすめする。
ホメオスタシス(恒常性)
人間にはホメオスタシスといって、環境を一定に保とうとする傾向がある。
例えば朝早く起きて朝活を始めようと思っても、今まで7時に起きていた人が急に5時におきることはできない。
そんなことをしたら頭がぼーっとして何もできずに時間が過ぎるだけだ。
少しずつ慣れていく
だから、15分ずつ起きる時間を早くしていくように、少しずつ変化に慣れていくことが大事になるんだ。
こんなふうにとにかく小さく行動を起こしていくんだ。
もし自分にとって価値のあることをやっているのなら、そんな小さな行動の積み重ねをしていると幸せを感じることができるはずだ。
逆に自分にとって価値のないことをやっているのなら、そもそも頑張れないし、努力もできないし、キツイことにも耐えられない。
怖いことから逃げて気持ちよくなろうとしてはいけない
最後になるが、この本のタイトルは「幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない」だ。
これは、「幸福」になりたければ「快楽」を得てばかりいてはいけないという意味だ。
あなたにとっての幸福とは
さて、ここであなたにもう一度質問してみようと思う。
あなたにとって「幸せ」とはいったいなんだろうか。
「腹一杯食べること」、「酒を浴びるように飲むこと」、「煙草を吸う事」、「ギャンブルをすること」、「寝ること」。
これらは確かにすぐに手に入れられるわかりやすい「幸せ」なのかもしれない。
快楽を追い求めてはいけない
しかし、本当に幸せになりたければこういった「快楽」に逃げるのではなく、「自分が価値のあると感じる行動」をしなくてはならないんだ。
しかし、そういったものは大抵苦痛だったりキツイと感じるものになるし、「今が幸せであればいいんだ」という考えの人もいるだろう。
そういった生き方や考え方を否定するつもりは毛頭ないが、あなたにとって本当の幸せとはいったい何なのかを、今一度立ち止まって考えてみてほしい。
まとめ
今回紹介した内容だけを聞くと、本書をまるで自己啓発本のようにとらえる人もいるかと思うが、それは違う。
この本はそういった自分に鞭を打って動かすのではなく、考え方を変えることで行動ができるようになるヒントを与えてくれる本なんだ。
例えば、仕事で手痛いミスをした時、心で「お前はダメなやつだ!」と思うのはたいして意味がない。
そんなことをしてもただやる気をくじくだけだ。
ここですべきことは行動を起こす事。自分の能力をアップさせるか、誰かに助けを求めることなんだ。
本書ではネガティブ思考に陥りやすい状況の時に、実際にどのように実践すればいいのかと言うことが具体的に紹介されているので、実際に手に取って日常生活の中で試して効果を確認しながら読み進めてみるのをおすすめしたい。